もし、過去にチャーリー・パーカーが来日していたらだ。評論家先生一同、バードを囲む江戸前鰻の食事会が浅草あたりでとりおこなわれたことに違いない。
鮨をつまんでいるバード、天ぷらをホフホフしているバードというのはちと浮かばないが、お座敷の座布団の上にデンとあぐらをかいたバードが重箱を持ち上げガガーっといく姿は容易に想像できる。
食べた後で、お腹をさすりながら、ワッツ・ディス?
すると、油井正一先生が、イ―ル・ライス・ボックス・・・。
というわけで、「チャーリー・パーカー/日本の印象」収録曲が、”ナウ・ザ・イール・ライス・タイム”、”コ・コ・イチバン”、”アーリュー・茶”となっていたであろう。
とはいえ、鰻とチャーリー・パーカー、間違いなく合う。あのぬめり、捕まえどころのない、あの弾力、あの油、精力増強。
そして、この間、浅草で鰻を頂いた。有名なお店。いちばん安い鰻が4800円とな、とほほ、それにした。鰻を食べるにお酒を飲まないと法令に触れるてんで、つかさず、金婚十右衛門っていう日本酒をオーダー。とっくりならぬ、グラス、あっという間に飲み干す。そんで、かなりの手持ちぶさた。常連のふりして、開放した窓の外の墨田川に視線をやったりして。まだ、来ない。お替り、オーダー。つまみはと、う巻き、オーダー、2400円。なんだ、それなら、ワンランク上の鰻でもよかったんじゃないか。う巻き、量多いな。ハーフとかないのかな。もう頼んじゃったよ。お替りグラス、あっという間に飲み干す。で、淡麗玄海麦、焼酎オーダー。来たよ、鰻が。いちばん安い値段だからチビッ子鰻かと思ったけど大きくて良かった。やっぱ、鰻を食べながらビールだな。普段はサッポロ派なんだけど、ここは、アサヒの本社ビルの前で飲むスーパードライてんで。えっ、小瓶ないの、じゃ、中瓶で。もうこの段階で、お腹、八分目。
あんた、さっきから、食べ物の値段の話ししかしてないけど、肝心の味は? そりゃ、美味いに決まってるものをわざわざ美味いって書いてもしょうがないという思い。絶対、美味いと書かない食レポ。
その後にかねてから気になっていた。"CHARLIE PARKER THE SAVOY 10-INCH LP COLLECTION"をゲットした。これはジャズ界再発のここ数年、最大の目玉だろう。
だが、世界的なコロナの影響で、あまり話題にならなかったような気がする。
私これ、数万するかと思っていたが、一万切る値段。ジャケットはペラペラじゃなくて、しっかりとした厚手。豪華とまでいかないがブックレット付。なんとなく、お得感を感じる。この値段でサヴォイ時代のバードを俯瞰できるのだ。
早速、一応、傷とかプレスミスの確認の為、一気に四枚を聴くことにした。
針を落とすと、チリもパチも言わない。最近のアナログ・レコードって凄い。スッと音もなく針が溝に吸い込まれていく。もち、その後も、チリパチ一切なし。
1946年の古い音源から聴く。もうこの一枚目からして、錚々たるナンバーが入っている。
MG9000 VOLUME 1
Now's the Time
Donna Lee
Chasing the Bird
Red Cross
Ko-Ko
Warming Up a Riff
Half Nelson
Sipping at Bells
まず、圧倒的に音がクリアだ。そつにまとまった優等生。だが、これはエリート中のエリートの音。視界が開ける。まさに名画の修復に立ち会った感じのよう。音圧もある。バードのアルトも太く、重心の低い音。何より、音に古さを感じさせない。これが、半世紀以上前の音源なのか。クリーンなイメージ。もし、チャーリー・パーカーがドラッグをやっていなかったら聴感上、このような音になったのではないだろうかというそんな音。
これは手持ちの7インチシングル。ジャケットと中身の盤が違う。入れ違い。この盤の中に、Donna Lee、Ko-Ko、Warming Up a Riffが入っているのだが、なぜか、音場がやや遠く聴こえる。これの10インチもそうなのだろうか。また、音もややかぼそく聴こえるような気がする。音質的には好条件と思われる45回転シングル、としても、良い音とは限らないというところがジャズレコの深い、面白いところ。
だが、このボックス・セットのこの音源は、そうした感がなかった。何も、気付かなかった。
さらに、手持ちのオリジナル10インチと聴き比べてみた。だが、音質の比較ではなく、あくまでも音の感じによる比較。
MG9010 VOLUME 3
BLUE BIAD
BIRD GETS THE WORM
PARKER'S MOOD
STEEPLECHASE
PERHAPS
TINY'S TEMPO
まず、この盤は傷だらけである。どうしたらこんなに傷がつくのかという感じで傷がある。水滴の跡が何度クリーニングしても消えない。したがって、チリパチいう。うん、キャンプの焚火のように。それでも、値段は一万しないくらい。つまり、この一枚で、この四枚が買えてしまう。
だが、出てくる音は何かが違う。普段レコードに慣れ親しんだりしていない方でも分かるレベルだろう。元の音源は同じであっても、その音の質感が異なるのだ。これは何も、やっぱりオリジナル盤だよねというようなことを書きたいのではない。チャーリー・パーカーの歴史的なサヴォイ・レコーデイングが1940年の終わりに行われ、その感覚をこれでもかと吸い取った1950年代のレコードがあり、時を得て、2019年の最新の技術とスタッフの愛情によって、こうした贅を尽くしたボックスで発表され、それが新しい人々に向けた新たな評価を待っていると言いたいだけなのだ。
オリジナルはSP時代の音の余韻を引きずっている。古色蒼然たる趣がある。だが、時にそこから生々しい音を響かせる。マウスから漏れる例のピーッという音も生々しい。古色蒼然、生々しい、反語するワードだ。だが、かっての10インチにもそれが潜んでいる。
そして、ここにあるのは決して上品な感覚ではなく、そのビニール材の溝に本来音楽としては必要ではない都市の猥雑な感覚をしみ込ませている。”PARKER'S MOOD”の巻頭の高らかに鳴り響くイントロがあるが、これなどは、サイレント映画の劇中のBGMのように聴こえたりもする。弁士が、「一夜明けて、工場の出勤時刻です。多くの労働者が集まってまいります・・・」そして、その屈強な労働者の表情や腰に下げた汚れた手ぬぐいをイメージさせるのはこのオリジナル音源の方であろう。以前、これより前にあたるダイヤル期のチャーリー・パーカーのSPを聴いたことがあったのだがその音の迫力に圧倒された記憶がある。獰猛な虎としてのチャーリー・パーカーを3分間という制約の檻に閉じ込めその唸り声を聴いているような。場末の見世物小屋的のような好奇心さえも揺さぶられた。それも、その場でリアルにだ。専門技術的なことは分からないが、今あるデジタル・オーデイオの世界とSP・アナログ・レコードの音世界の考え方、方法論はまったくもって異にするものだろう。果たしてオーデイオは進化したのか。
新旧、音の比較はこれぐらいにして、
そして、これ、ビバップ、当時は、ヤバい音楽の代表だったんだろう。アンダーグラウンドな、ヤバい奴らが集まる場所のヤバい音楽。ブライアン・ジョーンズがいた頃のローリング・ストーンズとか、ドアーズとか、パンクとか、アシッド・ハウスとか、デトロイト・テクノとか。なんか、イケてる音楽に乗り遅れないコツって、そうしたヤバい音楽チェックしておけばいいみたいな雰囲気がある。てんで、私も、このコロナ時期、世界的にも今いちばんヤバい音楽ってなんだろうと思って恐る恐る検索してみた。すると、一番最初に、”ヤバいTシャツ屋さん”っていう日本のバンドの記事が出てきた。
音とは関係のない、まったくの余談だが、
BLUE BIADで、ピアノのデューク・ジョーダンのソロの出だし、二音、三音くらいか、そのタッチがダブって揺れて聴こえるような感じ、エンニオ・モリコーネの音感を思い起こさせる。もし、興味ある方は確認してみて頂きたい。そんな人いるか、あんさん、いい趣味しておまんな~、はもういいか。
そんで、何より、サヴォイ期のチャーリー・パーカー油がのっている。そう江戸前の鰻のように。その音楽における柔軟性、その暴れっぷり、音感のヌメリ、
ちくしょー、また、あの店で鰻食べたくなってきた。なんか京都の川床みたいな風情あって、美味かったな~、言っちゃったよ。今度は、う巻き、ハーフで。