仮にモントローズ氏としまして |
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2019年 08月 18日
BY JACK MONTROSE with BOB GORDON ATLANTIC1223 私はむしろ、このレコードが好きで愛聴してやまないという人に興味がある。 以前、このレコードを買った人をよく覚えている。 パタパタと、エサ箱の隣、その方の手がピタリと止まったのだ。こういう時、レコード・コレクターならそれがどんなレコードなのか条件反射的にふと横目で覗いてしまうだろう。 それが、このレコードだった。それは私も持っているレコードだった。 ジャケット写真はまたしてものウイリアム・クラクストン。 その方は、うん、という感じで頷くとそれを脇に抱え、その後場所を変えながらほんのわずかレコードをパラパラやるとレジに向かって行った。そして、ふん、ふん、と、レジで検盤し、店員さんと短い会話をして、会計の最後に笑みを漏らした。 それは、やっと見つかったよ、か、思ったりより安かった、そんな感じだろうか。 だが、その笑みが印象的だったのは、笑ったその顔がこの盤の主役、ジャック・モントローズに似ていたからだ。 ただ年月だけ年期の入ったサラリーマンである私は、自分と同じ、サラリーマンの人種をなんとなく当てることができる。 休日の湘南新宿ラインの車両、ジーンズ、ロックT、キャップ後ろ被り、定番ニューバランス、バックたすき掛けのオジサンも、ああ、この人は普段の平日はスーツで出勤してんだなと分ってしまう。だって、靴下はいつものグレーの通勤快足。 それで、このレコードを買った方、分りづらいので仮にモントローズ氏としまして。モントローズ氏もまたサラリーマンであるように私には思えた。決定的な何かはない。ないが、休日の風、空気、何かそう感じさせるのだ。 年齢は40代後半から50代前半か。たいてい、休日のサラリーマンのお父さんのファッションは地元ショッピングモール2階の紳士服コーナーのマネキンのそれだ。それでも、イケてるお父さんであることは間違いない。だが、このモントローズ氏、麻のブルーのシャツ、腕に絡めたのは娘からもらったミサンガか、グレーの細見のパンツ、茶のローファー。なんというか格上のファッション。 笑みの感じから営業マンか? いやその笑みはあくまでも純粋だ。下心が見えない。かといって、技術系とは違う何かを感じる。私の知っている技術屋はみな地味だ。IT系か? 取り出した携帯はなぜかガラ携だった。で、管理職だなと。私の知っているそれは、二つのパターンがある。ひとつは、いわゆるコワモテのタイプだ。そっちの人かとみがまうほどの空気を発している人もいる。とはいえ、昨今のセクハラ、パワハラの教育は総務からこれでもかと受けている。だから、言葉の選び方もこれでもかと慎重だ。したがって、口数が少ない。余計、怖い。 もうひとつは、これは若くして管理職に就いた人のパターンに多いのだが、笑顔、饒舌、元気100倍、お疲れ様会好き、奥様のお財布はメンバーズカードでパンパンというパターンである。 だが、モントローズ氏、そのどちらでもない。笑顔、それは、若い管理職の笑顔、元気があれば何でも出来るの、その戦略的意図がない。こんな笑顔で部下を叱れない、いや、叱るんじゃない、悟らせろ、それならもっと効き目がない。 彼は、穏やかな地方の管理職のサラリーマンなのであろうか。ジャズファンでもある彼は、東京に、文字通り、ジャズ・トーキョーにレコードを探してに来て、めでたくこのレコードを買って帰ったと。娘のリクエストであるバターサンドの土産を手にして。 ふと、気が付くと、彼の姿はどこにもなかった。CD売り場にも、書籍売り場にも、もしやと思いレアグルーブのコーナーも探したがその姿はなかった。 いや、いや、話しを戻して、私が思うのはモントローズ氏、なぜ、あまたあるジャズのレコードあるなかから、これを、このレコードを選んだのだろうかということである。 マイルスでもなく、コルトレーンでもなく、ブルー・ノートではなく、チェットでもなく、マリガンでさえもない。こんな地味なレコードを。知る人ぞ知るようなレコードを。としても、アルゼンチンのジャズのレア盤というようなものでもない、その行為はヒップか否か。イケてるか、イケてないか。 今日はこれでも買っておくか、いや、そうしたリアクションではなかった。その反応から彼はこのレコードのことを以前から知っていたのだと思う。 モントローズ氏行きつけのジャズ喫茶の店長の一押しだったのか、それはあり得る。なんせ、ジャズ喫茶の店長ともなればジャズの名盤なんて毎日聴いてる、飽きるほど。サムシング・エルスは店のラジオ体操だし、クール・ストラッティンは3時のあなただし、バードランドの夜はまさに子守唄のはず。が、これは、店主マスター反応がちと違う。いいんだよなぁ、これ~。 その受け入れを真に受けて、モントローズ氏、この盤を探していた。 だが、モントローズ氏は知っている。 この盤のホントの方のジャック・モントローズのそのアレンジャー、音楽家としての稀有なセンスの在り様を。 もち、前作、パシフック・ジャズから出されたアルバムもいい。クリフォード・ブラウンのアンサンブルでのアレンジも知っている。当時の鳴り物入りの新鋭アレンジャー。フーガ、転調、そうした今までのジャズになかった洗練された試み、恐らくはショーティ・ロジャーズに影響を受けたものではあるが、その感覚はやはり並みではない。だが、なんと言っても、最高傑作はこのレコードであるということ。 メロディ、コード進行の複雑さ、そう感じる、オリジナリティ溢れる曲想、バリトン・サックスのボブ・ゴードンとの恐ろしいほどに息のあったアンサンブル。これはどこまで譜面にあるのか。そして、何より洗練されたムダのない小気味よさ。二曲目”エイプリル・フールズ”というナンバーはジョニー・マンデルなどの作編曲家に匹敵するものではないかということを。ボブ・ゴードンのバリトンからカルフォルニアの夕立ちの水滴を感じる。最後のナンバー、”パラドクス”ではその複雑かつ斬新なるコード進行におけるパラドックス。 そして、このレコードが発売されて間もなく、パートナー、旧友であるボブ・ゴードンを自動車事故でなくすという事実を。マックス・ローチ、ビル・エヴァンス、その後も彼らはその同様の哀しみを乗り越えて作品を作り続けた。その後、いくつも優秀な作品も存在する。だが、ジャック・モントローズ、そのショックと哀しみが如何に大きなものだったかを想像させるに、それ以降、この作品を超える内容のものを作り出すことはできなかった。 もし、ボブ・ゴードンが存命していればジャック・モントローズの名前はもう少し知られたものになっていたのではないかと。 アトランティックの黒レーベル、サーフィスノイズ、ジャズファンから酷評だ。だが、なぜか、どうしてかこの盤にはそれがない。レコード番号1223。それ以前の番号1217 リーコニッツ・ウイズ・ウォーン・マーシュにはノイズあり、それ以降の番号1241 ビル・ロッソでもそれが認められる。だが、この盤に奇跡的にそれがない。最高の音質。もちろん、彼はそうしたことも含めて知っている。 今や、かってのようにウエスト・コースト・ジャズのレコードは人気がない。一部のアーティストを除いて。だから、ただ、人気がある。イケてるだけで、この人は買うべきレコードを選んでいないことを実感できる。 そして、この何気ない魅力、いや、実力の先にある確かな魅力、それに気付いている。 人が、一枚のレコードを選ぶとて、私にはそれがとても人生を感じる。 このレコードを買ったモントローズ氏は、この世知辛い世の中と、どう戦っているのだろうか。どう折り合いをつけているのだろうか。不適切動画、あおり運転、トラブル時にはウインドウを閉めて110番・・・。 黒ビールは飲むのだろうか。場末の中華料理で紹興酒のつまみは何をオーダーするのだろうか。 とはいえ、お盆休暇の最終日、家族サービスに付き合わされた彼は今頃、ある地方都市で、のんびりとこのレコードを聴いているに違いない。 こんなようにオーディオの前で、あぐらをかいて、リラックスして、サックスの代わりにこのレコードのジャケットを手にして。 なぜか、私もこのレコードに魅せられる。その後、7インチ2枚ゲット。夜更けに取り出してはニヤニヤと眺める喜び。ただそれだけの為に用意された贅沢な逸品。
by senriyan
| 2019-08-18 14:54
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