新入社員諸君! もしかしたら君らのなかには初給料でレコードプレイヤーを買って、本格的にレコード・ライフを始めようかなんて思っている諸君もおられるのではないか。
端末をポチとやれば気軽に音楽が聴ける時代、なんでまたアナログレコード。DJ系でもない君は周りから変人扱いされていないか。
なんせ、このレコード手間がかかる。スマホはお金払って契約すればあっちの方からどんどん音楽が流れてくる仕組みだが、レコードはそうはいかない。最低でも、レコード・プレイヤー、アンプ、スピーカーが必要になる。”レコードって、どっから音でんの?”当たり前だが、スピーカーからだ。でもこのイマドキ女子の発言分らんではない。レコードなんか、触ったことも、見たこともない。まさに、彼女たちから見れば謎の黒い円盤UFOなのだ。
えっ、CDを聴いてきたので、アンプ、スピーカーは持ってます。おっ、それなら話しは早い。
まずは、君のおじいさん、おばあさんに聞いてみるのもひとつの手だ。お父さんお母さんはCD世代かも知れないが、おじさんたちはまさにその時代の人たち。もしかしたら、家の奥にまだ使えるレコードプレイヤーが眠っているかも知れない。
動作を確認する。動くようならラッキーだ。君の前途は明るい。次に、アームのバランスだ。アームが水平になっているかな。世の中はバランスだが、まさにここでも君の初のバランス感覚が試されるのだ。
レコードは大泉逸郎、”孫”ピッタリじゃないか。
で、おっかなびっくり音を出してみる。
何、レコードがちりちりいいます。針の劣化か、いやレコードがカビてんだな。でだな、この場合、下手なこと書くとだな、意見がいっぱいあるから、省略して、これと、これを使ってクリーニングする。いや、このカビこれはキビシイ。
レコードって、なんかメンドクサイですね・・・。
このおバカちんが。昨今、今の世の中、余裕がない、ゆとりがない、などというが、実はだな。ムダなことこそに実はそうした豊さがひそんでおるのだ。世の中はあまりにも迅速に結果を求めすぎている。結論を急ぎすぎている。
そもそも、ポチっとやれば音楽が聴ける時代にわざわざ電車賃払ってレコード買いにゆく行為こそ、ムダだろう。そんでだ、セールに並んでだな。んで、レコード買ってくれば、ジャケットの破れている個所をボンドで修理、ジャケットの汚れを奥さんの化粧品のパフに液をつけてふき取ってだな。裏ジャケットの汚れを消しゴムでクリーナー。そんで、糊付きビニール袋に収納してここで一安心。そんで、ここから、夜なべして、盤を、いや、下手なこと書くと・・・。で、ようやく、音を聴くか、いや、もう遅い。明日にしょうってか。
これを音楽を聴くという行為において、ただただ、ひたすらムダというものだろう。本当にモテル男はこんなことやってない。
だがな、ここまでして、ぼっちいレコードはようやく微笑んでくれる。
私は、毎日の通勤に徒歩を使っておるのだが、それは健康のためとかそうしたものではない。会社のある駅の一駅手間の駅で降りて、ひと駅歩いて会社に通う。
この時にだ、電車に乗っていれば、一瞬にして通り過ぎてしまう車窓の出来事が歩く視線によっては様々なドラマをもっていることがわかる。
例えばだ、線路わきに一軒の平屋の民家がある。50年は経過したと思われる住宅だ。ゆがんだ窓枠にはくたびれたカーテンがひっかかつている。庭にたらいが転がり、傾いた洗濯機にはひからびたゴムホースが垂れ下がっているようなおうち。
だが、ある時、私はそのお宅の玄関に立てかけれた寿司桶を発見するのだ。つまり、このお宅、昨晩、何かお祝いごとがあって、お寿司を注文したわけだ。回転寿司ではなくて出前のお寿司にこだわる祝いごとが。どうみても、そんなお寿司を出前にとるような余裕があるお宅には見えないけれども、無理をしてまでもそうしたいお祝いごとはあったのだろう。寿司桶は三つ。
私はそんな風景を目にしながら、社に向かう。豊かさを知るということは、実はそういったことでもある。
で、君はレコード・プレイヤーで、ジャズを聴きたいはずだ。大人の音楽だ。周りの友人たちからも一歩も二歩もリードする自分を感じる。まあ、君のことだから、予習はユーチューブで済んでいる。ビル・エヴァンスを聴くと女性にもてるはウソだ。だが、もてそうな気がするには事実だが。女性にもてる男は何を聴いていてももてる。ちなみに、あのビル・エヴァンスの感傷のようなものは、どちらかというと、男性に近い。で、マイルス・デイヴィスとなる。
マイルス・デイヴィスどっから聴けばいいんですか~ってか、
うん、マイルスはどっから聴いてみてもいいというのが結論だ。
クラッシックを多少聴いてきたのなら、”スケッチ・オブ・スペイン”がいいだろう。ジェネレーション的にラップに馴染みがあるなら、”DOO BOP SONG”で間違ない。昔、リアルタイムでこれ聴いて、マイルスつねに最先端、マイルスアヘッドな感じはわかるんだけど、どうもね、作品として尖がった感じがなかった。ヒップホップの連中の音楽は尖がっていたからね。だが、最近、これ聴いて思ったのが、やはり、クールなんだよね。マイルスは時代は変われでもつねにその時代その時代でクールな表現を貫いているね。ヒップホップの連中のいうところのクール感とこのマイルスのクール感にズレがないその感覚。そんでさ、マイルスも年をとってきて、本人の意思とは別に哀愁が滲みでるんだよね。
そんで、ロックから来たのなら、ジャズ・ロックの金字塔、”ジャック・ジョンソン”で決まりだ。私、これ7インチのプロモもっているけど、我が家の家宝として神棚に祭っている。このやさぐれたギターのカッティングはどうだ。マハビシュヌ・オーケストラってあんまり私詳しくないのだが、ジョン・マクラフリンって、こんな不良っぽいギターリストだったけ。これ、70年代の英国のロック、例えばザ・フーなんかと一緒に聴いていても違和感ない。ビリー・コブハムのロック的にタイトなドラムはどうだ。コージー・パウエルと入れ替わっても分らんぞ。(いや、分る人は分ると思います)マイルスのラッパが出るとことろまで、これ、なんのロックバンドだっけ?
ただ、最初に聴いてはいけないという二枚がある。
うん、一枚は、”オン・ザ・コーナー”であることはジャズの重鎮ならずとも知るところである。何をかくそう、私のマイルスの三枚目がこれだった。なんだ、こりゃと思った。何かムカデが地面をはいずるまわるようなリズムとそれをはやし立てるようなホーン。オレはマジ、リハーサルかなんかの音源かと思ったね。買ったレコード店に電話して、取り換えてもらおうかと思った。だが、これは日本盤にしてはシールドなんだよね。もちろん、やぶった後も後。
そして、もう一枚は、”クールの誕生”ということになる。エヴァンスはエヴァンスでもギル・エヴァンスの方だ。
多分、これ聴いても諸君らにはサッパリだろうから。これは、ジャズを聴いて、十年、いや、二十年、三十年たたないとわからん音楽である。私もようやく、この音楽の良さがわかってきた。
そんで、諸君らはもちろん、日本盤で充分。なんせ、マイルスは人気あるから安く買える日本盤もいっぱいあるでよ。オリジなんて言うのはまだまだ。何、今週の壁、いや私にとっては収入の壁。
そして、アナログ、レコードを聴く時間は、ゆったりと流れる。引き延ばされているような時間、根拠はまったくない。だが、そう感じる。多分、めんどくさい作業を強いられたその時代の怨念が執念が音に刻まれているからだろう。
そんで、このブログで何回も書いているが、レコードはそのレコードがリリースされた当時の音が出る。その気配が、、、
えっなに、
senriyanさん、さっきからお話しになってますが、ぼくのお父さんジャズレコのコレクターなんですよ。
はっ、?
マイルスとかコルトレーンとかオリジナルですべて持ってます。お父さんに使っていないおさがりのプレイヤーでレコード聴こうと思っています。
はあ、で、お父さんはオーディオ通でもある。
スピーカーはパラゴンですね。
何、パパゴンはパラゴンってか。
なに、なに、お父さんに、よろしく言っておいて。私、パラゴンでマイルス・アヘッドのステレオ盤一度、聴いてみたいと思っていたんだよ。どう、今晩飲み行く~。
いや、この後、友達とレコ堀りに行きます。父が持ってないレア・グルとか
レア・グループサワー?
いや、もういいっす。
諸君、この人生、大変なんだ。