ジャズ妄想夜話 第九回 初デートにふさわしくない食べ物としてのハンバーガーについて |
カレンダー
カテゴリ
以前の記事
2024年 01月 2023年 12月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 フォロー中のブログ
最新のコメント
メモ帳
最新のトラックバック
ライフログ
検索
タグ
クール・ジャズ
植草甚一
ウエスト・コースト・ジャズ
小雀俊二のレコード・コレクター珍士録
A&Mレーベル
クリード・テイラーを追悼する
ザ・ビーチボーイズのオランダ
ジャケ買い
ネオアコ
プレイボーイ入門
メイド・イン・ジャパン
リズ・オルトラーニ
ロココ・ジャズ
黒ビール
私はまだかって嫌いな人に逢ったことがない
庄司薫
深夜のジャズ・バーにふさわしいレコード
文章読本
北欧ジャズ
12インチ・シングル
淀川長治
アーバン・メロウ
アフロ・キューバン・ジャズ
イタリア・サントラ
エブリシング・バット・ザ・ガールズ
その他のジャンル
ブログパーツ
最新の記事
外部リンク
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
2018年 08月 19日
ボサノヴァ史上最も有名なこのレコード。1963年、この年のグラミー賞4部門受賞。 で、緊張感あふれるセッションのなか、ジョァン・ジルベルトが苛立ちぎみに言う。 ”おい、あいつはまるでボサノヴァというものを理解していない。あのグリンゴに伝えろ、オマエはバカだと” 通訳をまかせられた、アントニオ・カルロス・ジョビンはスタン・ゲッツにこう伝える。”彼は、あなたと共演できて、とても、光栄ですと言ってます。” その答えを受けて、スタン・ゲッツは答える。 ”いや、オレには彼がそんなことを言っているようにはとうてい見えない” 私が思うのは、ここでのスタン・ゲッツのプレイが、なぜ、ここまでジョアン・ジルベルトは機嫌をそこねたのだろうかと。 どこに、その問題があったのだろうかと。 ゲッツのプレイは間違いなく、このジョアン・ジルベルトの世界に溶け込んでいると思う。 ゆったりとしたフレージング、その冷ややかな音色、控えめな表現。”イパネマの娘”で、アストラッド・ジルベルトの後をうけて、スタン・ゲッツのソロが聴かれるが、続く、ピアノのジョビンのソロはそのゲッツのフレーズを受けた形ではじまるのだ。 これの、どこが、理解不足なのだろうか。 私はジャズほどではないが、ブラジルの音楽も多少聴く。サンバ・ジャズもCDが中心だが、かって、聴いてきた。 このブラジル・ジャズの解釈のなかで、テナー・サックスの役割というものが、どういったものなのか、どういった音を出すことが正しいのか、不勉強でわからないが、少なくとも、ゲッツのプレイはそこからそれほど遠い世界のものではないように感じる。 だがだ、、しかし、このエピソードは、それほど今となっては意味を持たないような気がする。何より、この二人は数年後に再び共演している。笑顔でジャケットにおさまって。 それよりも、何よりも、私はこの作品が大好きだ。 前年、1962年は、ゲッツの”ジャズ・サンバ”が大ヒットした年だ。この年に生まれた子どもはみなボサノヴァ・ベイビーと呼ばれた。 私もこの年に生まれた。ボサノヴァとスキヤキ。そう坂本九の”上を向いて歩こう”の年。日本人も戦争の傷跡から少しづつ立ち直ってきた時代。植木等。アイデアル、ナンデアル。ブーフーウー。 そのムードを引き継いで、この1963年。おしなべて、世界もまた幸福だった。ということにする。スパイは暗躍していたが、寒い国から帰ってシッパイ、007死ぬのはヒキョウだ。各国を代表する花たちがその国その場所で咲き乱れていた。大気汚染はまだそれほど深刻ではなかった。扇風機は熱帯夜一晩をフル稼働、だが、お役目はそれで終わり、早朝には涼しい落ち着いた気配を連れてきた。 人類はまだ純粋な部分を残していた。ピュアだった。 ”来週、お楽しみ会をやります。” ”先生、お菓子を買うお金がない子がいます。” はい、先生ぼくは思います。それでは買ってきたお菓子を集めてみんなのテーブルの真ん中に置いたらどうですか。” ”そうですね。それだと、みなが食べられますね。それに、みながいろいろなお菓子を食べることができますね。そうしましょう!” そうしたことを信じていた時代。 そして、今だ、ジョン・F・ケネディは生きていた。 そのニューヨークのスタジオ。 最初にスタジオに入ったのは誰だったのか? 私の興味あるところだ。 何しろ、遅刻魔のゲッツとジルベルトのことだ。 まずは、プロデューサーのクリード・テイラーだろう。いや、この男がいちばん怪しい。前年、”ジャズ・サンバ”で当てて、今や、飛ぶ鳥を落とす勢いの男。 仕事場に夫人を連れだってくるジョァン・ジルベルトもどうかと思う。スタジオに女を入れる。いろいろやった40年代のジャズマンでさえ、それが御法度なのは知っている。ジョンとヨーコ。だが、ジョンはビートルズの作品ではヨーコに歌わせることはしなかった。 だが、こっちのジョアンはアストラッドに歌わせた。歌わせることを許した。 三人の色男、スタン・ゲッツ、ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン。そして、美女。何かが起こる、起こらなければならないシュチエーションである。 三人のつける香水の匂いがスタジオじゅうプンプン。安物の香水ではない、どれも、歴史を感じさせるホンモノの匂い。 その匂いに、クリード・テイラーがむせる・・・。 ”もう、ニューヨーク見物はおすみですかな・・・。” クリードがアストラッドに尋ねる、社交辞令。 ”いや、まだですの。昨晩は、夫と一緒にホテルの部屋でテレビを観ましたわ。”名犬リンチンチン”とても可愛くて。” やがて、セッションがはじまる。 まず、ジョアン・ジルベルトとしては、これは、アウエーだと思っている。オレの音楽を真にリスペクトするなら、オマエらがブラジルに来るのが普通だろ。 で、スタン・ゲッツ。こっちこそ、自分こそが、アウエーだと思っている。 ジョアンになんでか夫人まで、カルロス・ジョビン、ブラジル人のベースとドラム。 こいつらは、阿吽の呼吸だ。 だが、オレは・・・。 なんでか、奴らは、椅子に腰かけている。 で、だ、自分も椅子に座る。部屋の隅へ。 エンジニアのフィル・ラモーンがギターを抱え座るジョアンの口元までマイクを下ろす。 あんなんで、腹の底から声がでるのか・・・。ゲッツは思う。 で、腹の底から、声を出さない調子で、ジョアンが歌う、いや、呟きはじめる・・・。 その様子をスタジオのミキサー・ルームで、クリード・テイラーとアストラッドが見守る。 ある曲のイントロで、ジョアンがこうはっきりスキャットするのがわかる。 ”チン、チン、リン、チン、チン・・・。” 間違いなく、これは当時のテレビ番組、”名犬リンチンチン”のことだろう。 アストラッドがミラー越しに微笑む。 そして、”イパネマの娘”・・・。 アストラッドがそれに合わせてハミングする。やがて、静かに歌いだす。英語でだ。 性格な音程、発音。ベリグーな雰囲気。 それを、商売人、プロデューサーのクリード・テイラーが見逃すわけなどない。と思うのが、今回のブログの趣旨でもある。 アストラッドはこれで、世界的な大スターとなるわけだが、 どう考えても、フツウのシローとが、はい、歌ってで、こんなになるわけない。 間違いなく、この”イパネマの娘”を歌う気で来た。英詩まで用意して。元祖ヘタウマ、赤い風船、浅田美代子。フランス・ギャル。 としか思えない。 クリード・テイラーはスタジオ内にアストラッドを・・・向かい入れる。で、ジョアンがポルトガル語で歌ったあと、リレーで、アストラッドに英語で歌わせる。 そして、その後の、スタン・ゲッツのソロ、それを受けてジョビンは・・・、冒頭で書いたとおりだ。 ちょっと、歌ってみてもらっただけだ。 直後、クリードはまわりにそんなことを言う。 だが、このイパネマの娘、最終のシングルカットで、クリードはこのヴァージョンを採用する。まではいい。 だが、冒頭のジョアン・ジルベルトの部分をカットする。 ばっさり、切り落とす。 何より確信的なのは、アストラッドが歌う場面で、音量が、グッと上がるのだ。ウソだと思うなら聴いてみてほしい。 そして、このナンバーは世界中で大ヒットする。 もち、知られているのは、アストラッドが歌うシングル・ヴァージョンでだろう。 この段階で、それを、ジョアン・ジルベルトは知る由もない。だが、そんな空気を予感している。この人、この時、まだ若いとはいえ、人の心の動作、動きまでを音の波動として感じられる男。 で、録音は進む。 ゲッツの調子は良かった。その日の星占いでは星座第一位。新しい出会いの予感。きっとあなたは成功するでしょうとあった。 だが、ジョアン、この男ゲッツが調子がいいほど、何か、感じる。違和感。 センシブティな音楽、繊細な表現を求める、自身のお音楽。 ひとつの世界に花は二輪要らない。 だが、こいつが吹けば、吹くほど、なにか、微妙に、微妙にだ、センシブティなこの世界から自分が遠ざかる。 所詮、ハンバーガーを喰らうやつらグリンゴの音楽。連れの女性に大口でそれを喰わせる。 初めてのデートで最もふさわしくない食い物。デリカシーのかけらもないジャンクフード。 で、あのセリフが出る。 ピアノ兼、通訳としてのアントニオ・カルロス・ジョビン。 で、その謙虚な姿勢がやがて、赤いキリンを連れてやってくる。分かる人だけのブログ。ビール赤のキリン新発売。 mono-monoさん、インスタグラム楽しみにさせてもらっています。 スタン・ゲッツは思う。ハンバーガーの何が悪い。 好きな女性をデートに誘い、自分のお気に入りの店のハンバーガーを人目を忍ぶことなく、ガブっていってくれる女の子。口元を汚しながらもおいしいって言ってくれる女の子。 センシブティがなんだと言うんだ。 そして、このレコードが全米でやがて全世界で発売された時、タイトルはこう決まった。 “ゲッツ・ジルベルト・フューチャーリング・アントニオ・カルロス・ジョビン“。 本来であれば、ジルベルト・ジョビン。フーチャーリング・スタン・ゲッツとなるところを。そうなった。 アメリカ的である。この頃からあんたたちは、なんでもいちばんである。そう、あんたが大将。 私は、ごくまれに、ハンバーガーが好きで、時に、ハンバーガーが大嫌いである。 だが、このレコードは大好きだ。 夏休みの終わりのボサノヴァ。 父や母、老いたが、とりあえずは元気だった。安心した。そして、妹。奮発して鰻を買って帰った。 レコードの収穫もボチボチあった。いずれまた。 ああ、夏休みも終ってしまう。 振り返りながら、このレコードの余韻とともに。
by senriyan
| 2018-08-19 16:22
|
Comments(2)
|
ファン申請 |
||