ハードバップ予備校 ー第五回ー |

優れたハードバップ名盤の条件とは何か?
ぼくの場合、それは単にカッコいいということだけだ。それに尽きる。小難しい理屈は入らない。
かの評論家が褒めていたとか、歴史的に評価の高い名盤だとか、全国ジャズ喫茶マスターいち押しとか、ボーナス・トラック5曲入りとか、ジャケの美女にうっとりとか、ダスコが入ってますとか、決してそういうことではない。
自分にとって、その音楽がヒップであるか、否か、それだけなのだ。そのカッコいいハードバップを聴いている自分もこれまたカッコいいと感じられるかどうかである。
で、このレコード。若者に人気があるという。特にA面2曲目”on children"が、彼らでいうところの意味でヤバイらしい。
しかし、若者に媚び売るつもりはないが、なぜ、あまたあるジャズのレコードから彼らはこの盤を選んだんだろうか?
1967年である。ジャズの主流はモードであって、フリー・ジャズは頂点を迎えようとしていて、モードもフリーも馴染めないミュージシャンはジャズ・ロックでなんとか身をつないでいたこの時代。
アトランテック・レーベルではどこか不良ヤンキー顔でジヤケットにおさまって彼だったが、ブルー・ノートのジャケットではインテリに見える。
レーベルカラーとはこんなところに反映されるのか。そのジャック・ウィルソンのBNレーベル第二弾である。
まずは、ジャック・ウィルソン。メンバーを聞かされて、えっと!なる。ベースにボブ・クラショウ、ドラムにビリー・ヒギンズである。これは、BNレーベルのヒット作である”サイド・ワインダー”の強力なリズム・セクションの二人ということである。
"うん、まあ、A面一曲目のお約束のジャズ・ロックね。いいいでしょう、やりましょう。はい、トロンボーンはガーネット・ブラウンですね。イエス、もち了解。"
彼はここから、ビックリする。
なんと、トランペットにリー・モーガン、アルトサックスにジャツキー・マクリーンだという。
これでは、この時期のBNレーベル・オールスターズではないか・・・。
オレいなくともいいんじゃねぇ・・・。そこで、ジャック・ウィルソンは少しむくれる。
表情がアトランテック時代に戻りそうになる。
さらに、レーベルオーナーのアルフレッド・ライオンが言うには、”何処か新しい風が吹くような新鮮なハードバップを期待したい”と。
当時、ジャック・ウイルソンは自身のバンドにはビブラフォン奏者を入れて洗練された音楽をやっていた。BNレーベルの一枚目もそうしたカラーだった。
ジャック・ウイルソンは思う。
新風が吹きこむようなハードバップなんて、今さら、時代遅れもいいところだろう。ビートルズやら、フランス・ギャルやら、ボサノヴァやらの時代に。
アートのジャズ・メッセンジャースや、ホレスのバンドは続いているけど、それなら、彼らのレコードを買って聴けばいい。
だが、ジャック・ウイルソンは少しづつ思い直していく。
”もともとはオレだってハードバップに頭まで浸かった身。ホレスの音楽はもとより、ファッション・センスにもシビレたもんさ。どうだい、オレの恰好だって決まってるだろう。ホレス譲りだよ。
だが、最近のジャズ・ミュージシャンときたら、ソウルとかコテコテとか知らないが、頭にターバン巻くわ、首に数珠ぶらさげるわで、どうにもいけない。この間、エリック・クロスと話したんだ。オレらだけは、ビシッといこうよって。
そう、ハード・バップはオレにとっても基本で、この世でいちばんカッコいい音楽でなければダメなんだ。"
こうして、ジャック・ウイルソンは最高のジャズ・ロックナンバー”DO IT"と、現代の日本の若者をも魅了するハードバップナンバー、"ON CHILDREN" そして、"EASTERLY WINDS"らを持ってスタジオ入りする。
この頃、フリーの洗礼をあびていたマクリーンではあったが、ジャック・ウイルソンが提示したそのハードバップの様式美に回帰することはたやすく容易だった。
そう、ジャッキー・マクリーン、ここでは、何か迷いのないプレイに徹している。乗っている。
そして、リー・モーガン、んなことだったらオレに最初に聞けよ、とハードバップの申し子なる余裕と貫禄をこの盤でも見せつける。
そして、意外なのが第三の男、トロンボーンのガーネット・ブラウン。彼はその後、サド・メル楽団でそに名が知れ渡るようになるそうだが、ここでも、実にいい感じに気を吐いている。
特に、"ON CHILDREN"のソロに入る時に、小刻みなフレーズをもちいながら、まるで、助走をつけるかのように音楽の渦に入っていくその様がなんともカッコいいのだ。
この世で、芸術にしろ、仕事にしろ、何にしろ、そこには様式美というものが生まれてくるし、そなわってくる。日本の伝統芸能であれ、職人の手仕事であれ、芸術映画でも、コメディでも、マカロニ・ウエスタンでも、もちろんジャズでも、そして、フリー・ジャズさえ。
その様式美を見直すことで、新たに、物事を進めようとする者もおのずと出てくる。
しかし、その様式美を理解せずには、変革も修正もない。
このレコードには、67年当時のハードバップの様式美が息づいている。何も、いじらんでほしいと切望する。
だが、ジャズの歴史において、これが意外のほか難しい。

このブルーノートのジャケットカッコいいですよね。
この頃になるともうモダンジャズとは言えなくなりますが確かにハードバップのエッセンスは残っているような気がします。
ジャック・ウィルソン自体 余りレコードは持っていないのですが アトランティックのトゥーサイズオブ ジャックウイルソンはドラムのフィリーのアルバムのようでピアノの印象が殆どなかったような(笑)
この間 ハードバップって何?とジャズを余り聴かない人から質問され どう答えたら分かってもらえるのかちょっと困惑してしまいました。楽理的な説明でも余りはっきりした定義はないですよね…
ハードバップの定義。
今、1994年にスウイング・ジャーナル増刊 ハード・バップ熱血辞典というのが手元にあるんですが。そのなかの、油井正一さんによる”白人のクール・ジャズに対抗する形容として、ハード・バップという言葉が区別の便宣上使われだした”
これが最も適切な説明かなと思っています。
もう一つは、
黒人の人達が薄暗い地下で、トランペットをパー、パー、ピアノをチャラン、チャラン、ドラムをドン、ドン、ひたすら延々にやっていて・・、
分からない人には、これは、もうサッパリ。
だけど、分かる人には、今夜はサイコー。そんな音楽。
ジャズを聴かないウチの奥さんのジャズ感なんですけど。
これなんかも的を得ているかなと。(笑)