その男レス・スパン |
いつもの馴染みの赤のれんをくぐると板前の何人かが変わっていた。
井上順に似た新しい板前の一人がショウガをおろしている。
何か、いつもの店の雰囲気と異なる空気が漂う。大将は”へい、いらっしゃ~い”と変わらないが、
私はちらり思う、長年通い続けた私の愛したこの店の味は大丈夫なのかと・・・。
このレコードに初めて出会った時の違和感を表現するとそんなところになる。
変わった板前とは、ドラマーのフランク・ガットであり、ショウガをおろしている井上順似の板前の方はギター・フルートのレス・スパンということになる。
その思いに打ち明ければ、ただ、ぼくはいつものレッド・ガーランドのピアノ・トリオが聴きたいのだ。あの寛いだ感じ、どっしとした貫禄、余裕があるなかを、コロコロと転がるあのフレーズを聴きたいだけなのだと。
早い話し、ドラマーのフランク・ガットは別にして、ギターとかフルートは要らないじゃないかという違和感である。そもそも、レス・スパンという奇妙な名前、二種の楽器の両刀使いという点からして何とも信用出来ない何かがある。(笑)
で、針を落としてみる・・・。
やっぱりだ。室内楽的なアンサンブルというのか、何か、こう、とりすましたような演奏になっている。M・J・Qでもあるまいし、レッド・ガーランドの持ち味ったらこんなもんじゃないだろう。
おまけに、サム・ジョーンズのベースがぺなぺなして聴こえる。まるで、セロか何か弾いてる感じだ。チコ・ハミルトンでもあるまいしと。
そして、こうした違和感を持ちながらもこの盤を聴いてきたのだが、ある時から、あ~これはこれで良いな~と思えるようになったのである。この辺りの感覚は、やはり、ジャズという音楽は面白いものだと感じる。それは、聴く者の耳の成長なのか、音に対する慣れなのか、はたまた、ジャズの方の奥深さというか、ちょっと聴いたくらいではその本質を見せてこない頑固さにあるのか。
で、何がいいって、信用出来なかった男、レス・スパンの演奏がいいと思えるようになったのだ。ギターは重い音と言ってもよい。指さばきはウエスほど神がかっていないのだが、その音にはソロなどに顕著であるように一音に存在感がある。しかし、バッキングにまわった時の控えめでありながら、全体の音をわかりつつ、スパイス、薬味を加えていくあたりになんとも良い味がある。そう、良い味がでる。
スパイダース時代の井上順のパートはリード・タンバリンだったが、(笑・堺正章談)このレス・スパンはギターとフルートを同じ力量でプレイする。そうした器用貧乏的なところが災いしてか、この人の名を知るジャズファンは少ない。
しかし、この名前を知る耳の肥えたジャズ・マニア、ジャズ先輩などは彼の名前が入ったレコードに一目置いていることを後に知ることとなった。
すなわち、デューク・エリントン・ウイズ・ジョニーホッジスの”back to back”や、カーティス・フラーの”the magnificent of、”などのレコードである。
思えば、レス・スパン、リーダーアルバムもあるにはあるのだが、どうも主役級ではないような気がする。だが、それよりもこの人には自身の参加したレコードを光らせる何かを持っている。初めからそこにあったものをさらに高める何かが。それは、彼が自身が自身を極上素材の味を引き立てるスパイスであり薬味であることをわきまえているからだと思う。だから、彼が参加したレコードは極上の料理、繊細な料理のように舌の肥えた、いや、耳の肥えたマニアを唸らせることとなるのだ。
井上順に似た、その男レス・スパン。
最後に、彼とレッド・ガーランドとの共演はこれ一枚だったと記憶している。収録の終わり、別れ際、スタジオを出ていくとき、彼はレッドにこう言い残したという・・・。
♫お、せ、わ、に~、(お世話に~)なりました~♫
年の瀬にこんなバカなブログ書いている暇なオレ大丈夫か?
あなた、もう窓ガラス拭いてくれた。 は~い、すぐやりま~す!(笑)
senriyanさん、こんにちは、ブログの開設、おめでとうございます。bassさんの夢レコのコメントからこちらに参りました。
タイトルがイケてます! こんなの大好きです(笑)
勿論、内容もイケてますよ。
レス・スパン、>自身の参加したレコードを光らせる何かを持っている・・それは、彼が自身が自身を極上素材の味を引き立てるスパイスであり薬味であることをわきまえているからだと
確かに仰る通りかと思います。 僕も”ジェミニ”はあまり聞かないです。 このレコードも持っていますが(僕のも黒ラベルステレオです・笑)、ガーランドはいつも別の盤に行ってしまいます、一緒ですねぇ。
楽しみが増えました! これからもどんどん、良いレコードの紹介をお願いします。
やはり、この辺りはやはりお持ちですね。M54さんのも黒ラベルのステレオでしたか。ぼくも、安く買えたのはいいんですけど、最初は記事のとおり違和感ありましたね。でも、録音的には悪くないかなとも思います。
あと、”ジェミニ”もお持ちとか、ぼくもそれを持っていれば写真を載せたいと思っていたのですよ。実はあのジャケットのレス・スパンの方が井上順に似ているので。(笑)
あと、レッド・ガーランドのピアノの上、灰皿に煙草が吸いかけが一本のってますよね。で、レッドは手に煙草を持っているので、これはどう見てもレス・スパンのものだと思うんですよ。この人かなりのヘービースモーカーで片時も煙草を手放せない。というのも、”ジェミニ”のジャケットでも煙草を持って写っていますもんね。(笑)
M54さん、また覗いてやって下さい!