膝を抱えて隅っこっで座っている人のレコードありますか? |
レコード店で壁に飾ってあったレコードが安くなっている。このジャケットで以前より気になっていた一枚。恐らくはカゼひき盤のせいで敬遠される方も多かったのか、とりあえずは視聴させてもらう。すると、これがすごくいい。その迷いのないぼくの買う気に満ちた表情を見て、マスターが笑みを浮かべて言う。このレコードは歳とってから分かるようになるんだよね・・・。
まあそうだろう、そうかも知れない。20代、30代の刺激に満ちた頃ってジャケットからして、このようなタイプのレコードを手にとることはまずないだろう。
レーベルは西海岸のジャズ・レーベルmoode。このレーベルはやたらと謎の多いレーベルでもある。
そして、いわゆるビーニールの素材、剥離剤等の問題でいくつかのカゼひき盤が存在することが知られている。要はバックノイズがややサーッとくる。ザーッではない、あくまでもサーッとくる。この盤もまあそうしたものではある。
内容で言えばこのレコードはドン・ファーガキストの唯一のリーダーアルバムということで知られる。で、ドン・ファーガキストという人はどういう人何だろうかと調べてみると。
経歴でいえば、トランぺッターとして、ジーン・クルーパー、アーティ・ショー、ウディ・ハーマン、レス・ブラウンといつたバンドで活躍している。また、ディブ・ペルのオクテットで多数の吹込みがあるとある。
でそうか、ディブ・ペルと言えば、moodeこのレーベルの裏ジャケのアーテストのフォトグラファーその人で知られる。もちろん、このアルバムのドン・ファーガキストのフォトもディブ・ペルのものによるものだ。そうか、意外なところでつながっているんだねと思う。
それで今度は、ディブ・ペルについて古いジャズ雑誌をパラパラやっていると、その独自のオクテット・サウンドに語る彼自身が語る興味深い記事が出てきた。
それには、8人のメンバーでカウント・ベイシー風のビックバンド・サウンドを生み出すというコンセプトのもと、その特徴はトランぺッターのメロディ・ラインにギターをユニゾンでプレイさせトランペットのメロディーを浮き上がらせること。どちらかというとイノヴェイティブというよりは一般大衆の耳にスムーズに入るようなサウンド作りをしたとある。
なるほど、本アルバムはギター奏者こそいないもののこのアイデアを踏襲したものであることがなんとなくわかる。
しかしながら、そのリーダーの存在というのがそれほど全面に出てこない。このリーダー、ドン・フアーガキストはやたら自然体なのだ。たぶん、ふだん自分たちがやっているライブをそのままに肩をはらずに等身大でやってのけただけのことだろう。
ここで、ぼくは、ハタッと気付くこととなる。もし自分がリーダーとしての最初の吹込みを仰せ使ったのならば、恐らくここはひとつチャンスとばかり、あーでもない、こーでもないとやたら自分以上のものをこの機会に持ち込むだろうと。背伸びをして、。そうして気が付けば等身大の自分とは程遠自分を不器用に売り込むことになるのだ。そうした結果は御多分にもれず思わしくない。今まで、そんな人生経験をうんとこさと経験してきた。
本当この人のトランペットは肩の力がいい意味で抜けているのだ。このあたりの感覚は本当にジャズの西と東では異なるなあ。そうして、ぼくが、この盤に魅了されることと結局はそうしたことなんだろうと思う。う~む。マスターが言っていた、このレコードは歳をとってから分かるようになるとはそういうことかと納得する。
で、こういうレコードの良さが分かるようになるって歳をとるのも悪くはない、というのがこのようなブログの結びの常套句だが・・・。
う~む、ぼくは、このバックノイズがどうでもいいと思えるのは果たして進化か退化か?(笑)
最後に、マスターが言うには、膝を抱えて隅っこで座っている人のレコードありますか?と年にいちにどのペースでそんなレコードの問い合わせがあると言う。
もちろん、そのレコードとはこのレコードのことである。